THE MANCHURIAN CANDIDATE(輸入盤DVD)

邦題:クライシス・オブ・アメリカ

基本データ

THE MANCHURIAN CANDIDATE DVDジャケット
  • レーベル:PARAMOUNT HOME ENTERTAINMENT
  • 制作年度:2004年
  • 上演時間:129分
  • 監督:ジョナサン・デミ
  • 出演:デンゼル・ワシントン、メリル・ストリープ、リーヴ・シュレイバー
  • 画面:1.85:1/アナモルフィック
  • 音声:DOLBY DIGITAL 5.1ch 英語、フランス語
  • 字幕:英語、スペイン語

あらすじ

 1991 年湾岸戦争下のクウェート、マルコ少佐率いる部隊は定時偵察の最中、敵の襲撃を受けるが、ショウ軍曹の活躍により、2 名の犠牲者を出しただけで敵を退けることに成功した。時は流れて現代、ショウ軍曹は政治家への道を歩み副大統領候補の選挙戦を始めていた。その選挙活動を横目で見ながらマルコ少佐は部下の一人であるメルヴィンから奇妙な話を聞かされ、様々な絵や新聞を見せられる。そして次第に 1991 年の敵の襲撃は本当にあったことなのか、それとも幻覚なのか分からなくなっていく。独自に調査していくうちにマンチュリアン・グローバルという会社の名が浮かび上がってくるが、マルコ少佐が証拠を見つけたと思うと必ずその証拠が消されてしまい、周囲から次第に戦争の後遺症による精神障害と思われ始める。一体マルコ少佐の見たものは真実なのか、幻覚なのか。そしてマンチュリアン・グローバルという会社の存在は。ショウ軍曹の副大統領選挙の行方は。物語は意外なラストに向かって進み始める。

感想

 1962 年制作の「影なき狙撃者」のリメイク版が今作の「クライシス・オブ・アメリカ」なのですが、原題はどちらも「THE MANCHURIAN CADIDATE」です。1962 年版は未見ですが、時代背景から中国共産主義に対する危機感をメインにしているようです。 

 

 「クライシス・オブ・アメリカ」では、マンチュリアン・グローバル社(正確民間会社組織ではないようですが)の行っていた実験の脅威を描いています。でも社名からやはり中国の脅威をニュアンスを弱めてはいるものの意識しているようにも思えます。

 

 「クライシス・オブ・アメリカ」の面白いところはやはり現代に設定を変更した結果、2001 年 9 月 11 日以降の右翼化したアメリカに対する批判が見られる所にあるのではないかな、と思います。湾岸戦争の英雄であるショウ軍曹は副大統領候補として政治活動を行っていますが、物語後半でやはり上院議員である母親の有無を言わさぬ意向により政治活動を行わされていることが明らかにされます。そしてその母親は相当前からマンチュリアン・グローバル社と関係を持ち、いろいろ秘密裏に活動していたことも描かれていて、アメリカという国を世界の正義と考えるがためにマインドコントロール装置を実の息子にまで埋め込んで一方向に行動をさせようとするところにそのような意図が見え隠れするような気がします。

 

 一方物語の主役であるマルコ少佐は部下であるメルヴィンとの再会と彼の妄想を見せられた結果、次第に過去の記憶を思い出していきますが、その記憶自体が真実なのか、それとも幻覚なのかが分からなくて物語中盤過ぎまで混乱し続けます。映画としてはポリティカル・スリラーですが、中盤までに限ってみればサイコ・スリラーとしても取れるのではないかと思います。マルコ少佐のクウェートでの戦闘の記憶が真実なのか、それともメルヴィンの妄想により呼び起こされた幻覚が真実なのか。観客も混乱するように作られています。物語が進むにつれて幻覚と思われていたマンチュリアン・グローバル社の記憶のほうが真実と思われる証拠が出てきますが、それすらもすぐに消されてしまいますので、サイコ・スリラーとも取れなくはないなと思います。

 

 さらに途中から連邦捜査局まで介入してきますが、それを最初は全く示唆していませんので、観客にミスディレクションさせるような仕掛けがされていることにもなります。マルコ少佐が疑念を抱き始めた頃から彼の行動をモノクロの写真で撮影するシーンが良く出てきますが、最初は後々出てくるマンチュリアン・グローバル社の監視かと思うように物語を組み立てていますので、中盤以降は意外度が増してきます。それがこの作品の面白さにつながっているかと思います。

 

 クライマックスではマルコ少佐までマインドコントロールされてしまって暗殺者になってしまいますが、マインドコントロールされていたはずのショウ軍曹が正気を取り戻したところに悲壮ですが、一方向に世論誘導されるのを否定する意志の強さを感じるところであります。ちなみにマルコ少佐はあるポイントを狙撃の目標にしていた訳ですが、それが赤い星印、というのもやはり何となく中国共産主義に対する脅威を暗示しているようにも思えます。

 

 映像はフィルム調で、かつきわめて自然な色調ですので観ていて心地よいです。多少は CG 等を使っているのかもしれませんが、ほとんど目立たず、目に対する疲れを感じない映像になっています。音響はさほど派手ではありませんが、幻覚のシーンでは異常に誇張した空間の広がりを見せております。それも真実かそうでないかを混乱させる作品のトーン作りなのでしょう。

 

 ところで邦題の「クライシス・オブ・アメリカ」というタイトルは変です。物語からしたら世論を一方向に誘導させてしまうことの危険性を暗示した作品なのにこのタイトルではアメリカという国自体が悪の国から脅威を受けているように取れてしまいます。変に英語タイトルをつけるぐらいならセンスのいい日本語タイトルをつけたほうがいいのではないかと思いますね。

 

2006年5月14日