Brazil(4K UHD Blu-ray/CRITERION)|未来世紀ブラジル|輸入盤DVDで観た映画のレビュー
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邦題 | 未来世紀ブラジル |
レーベル | THE CRITERION COLLECTION | |
制作年度 | 1985年 | |
上映時間 | 143分 | |
監督 | テリー・ギリアム | |
出演 | ジョナサン・プライス、ロバート・デ・ニーロ、キャサリーン・ヘルモンド | |
画面 | 1.85:1/DOLBY VISION | |
音声 | dts-HD MA 2.0ch 英語 | |
字幕 | 英語 |
あらすじ
20世紀のどこかの国。その国はダクトやコンピューターとテレビによって市民を管理する管理社会だった。その管理社会に対するテロが横行していた。
ある時、国家の情報管理局でコンピューターがテロリストの情報を出力していたとき、室内に蠅が紛れ込み、その蝿によってテロリストの名前を間違える事態が発生する。しかし、情報管理局ではそのことを気づかず、本来逮捕すべきハリー・タトルというテロリストの代わりに善良な市民であるアーチボルト・バトルを逮捕してしまう。タトルとバトルの誤認逮捕を知ったバトルの隣人であったジルは、情報管理局に間違いを指摘し、バトルの逮捕を無効にしようとするが、逆に情報管理局に目をつけられてしまう。
情報管理局で働くサムという男は、父と母がコネがあったので望めば出世は容易だったのだが、サムはそれを望んでいなかった。サムは、いつも夢の中で女性を救い出すヒーローを見ていた。そのヒーローは自分であった。
サムは自宅のダクトが故障したので情報管理局の修理部門に連絡を取るのだが、修理部門は対応してくれなかった。サムの元にテロリストのハリー・タトルが現れ、サムの家の故障したダクトを修理部門に無断で修理し、颯爽と立ち去っていく。その後、情報管理局の修理部門が現れ、サムはテロリストであったハリーが修理した痕跡を見つけられてしまい、修理部門に責められる。
ある時、誤認逮捕でバトルを逮捕して処刑してしまったことを知ったサムの上司カーツマンは、後始末をサムに押し付けるが、サムも満更でもなく後始末のためにバトル家を訪問する。しかし、バトル家の妻は半狂乱になり、サムは困惑する。その時、バトル家の様子を伺っていたジルの姿をサムは見る。ジルはサムの夢の中に現れる女性そのものだった。ジルを追いかけるサムはコンピューターでジルの情報を得ようとするが、機密情報扱いになっていたので、サムに閲覧権限はなかった。
ジルのことを知りたいサムは、今まで望まなかった昇進をヘルプマンに要望し、昇進する。そして、機密情報扱いだったジルのことを調べ上げる。
ジルのことを知ったサムは、ジルを救うべく次第に情報管理局の管理から逸脱して行動してしまう。それは、ジルにとっても迷惑な話であったのだが、サムの行動は暴走し、最終的にはジルのコンピューター上の情報を抹消し、ジルを自由の身にする。
情報管理局の管理から逸脱してしまったサムは、最終的には囚われる。そして、サムは人格改造を施されようとしていた。
レビュー
テリー・ギリアム監督が製作した映画の中で、最も注目を集め、話題になった問題作が、この「未来世紀ブラジル」です。1985年に発表されたこの作品はいわゆる「ディストピア」ものであり、強烈なブラックユーモアに彩られた絶望感を醸し出しています。アメリカでは最終編集権をめぐって配給会社のユニバーサルの社長とギリアム監督が大喧嘩を繰り広げたことでも記憶に残ることになっています。その関係もあってか、制作費を回収することはできませんでしたが、評価は非常に高く、Rotten Tomatoesの批評家評価は98%、観客評価も90%と高評価を得ています。
以前、アメリカ公開版の「未来世紀ブラジル」を鑑賞し、そのレビューを書いていますが、今回鑑賞したのはTHE CRITERION COLLECTIONからリリースされた版であり、その内容はヨーロッパ、日本での劇場公開版に冒頭だけアメリカ劇場公開版の映像に差し替えたファイナル・カット版です。前述の通り、アメリカ劇場公開版ではユニバーサルの社長との大喧嘩により、10分以上このバージョンよりカットされた短縮版で公開されていますので、アメリカに住むこの作品のファンにとっては初めて監督が意図したカットで「未来世紀ブラジル」を見ることができるようになっています。もちろん、ファイナル・カット版ですので、ヨーロッパ、日本のこの映画のファンにとっても貴重です。THE CRITERION COLLECTION版はレーザーディスク時代からファイナル・カット版のリリースを始めており、DVD、Blu-rayを経て今回は4K UHD Blu-rayとしてのリリースになります。
映画は20世紀のどこかの国、と設定がされていますが、2025年の今鑑賞したときに、我々の住む世界のどこかの国に当て嵌めても話が通じる設定になっています。市民は国家の推進するダクトとコンピューターによって生活を支配され、また、マスメディアとしてのテレビがどこにでもあるので、今の時代のコンピューターやスマートフォンによって生活が支配されている現状と重なります。
その管理された国家に対してテロリズムが横行する展開になっていますが、国家に支配されていてそれを実感できない市民からしてみれば、テロリストたちの行動は自由を求める戦いと言ってもよく、主人公サムが自宅で起きたダクトの故障から関わっていくことになるテロリスト、ハリー・タトルとの交流は、サム自身が管理国家からの逸脱を求める展開に寄与しています。
サムは一介の公務員にすぎず、亡くなった父や母のコネで本当はもっと昇進できるにも関わらず下っ端の生活を望んでいますが、普段から見ていた夢の中に現れる女性が現実に存在し、その現実の女性ジルがテロリストのハリー・タトルと間違えて情報管理局が逮捕、処刑してしまったアーチボルト・バトルの存在を知っているがために情報管理局に要注意人物としてマークされてしまい、そのことを知ったサムがジルを救出しようと次第に情報管理局の歯車から外れていく様をブラックユーモアを交えて描いているところに、この映画の面白さと怖さがあります。管理社会から逸脱したサムが辿る運命は、背筋の寒くなる思いです。
サムが情報管理局の歯車から逸脱して、次第に情報管理局の法を破っていく様は、痛快ではありますが、クライマックスでにサムに訪れる悲劇が物語をハッピーエンドとして描けず、体制の暴力から逃れる方法は夢を見るしかないという皮肉が、映画の余韻を強く残しています。
サムが見る夢はジルと同じルックスの女性を救い出すものでありますが、サムが相対する敵が日本の侍めいた怪物であるところに、ある種のメタファーが隠されています。欧米諸国から見たら異世界である日本の侍がサムの夢の中の敵になるところは、管理された世界からの脱出を象徴的に描いています。
映像は4K/DOLBY VISIONで収録されています。35mmフィルムをマスターにして、テリー・ギリアムの監修の元、4K/DOLBY VISIONでスキャンしていますので、ネイティヴ4Kでの収録になります。35mmフィルムがマスターですので、フィルムグレインはそれなりに存在しますが、その分解像度は高く、高精細な映像が堪能できます。また、DOLBY VISIONによる色彩管理はコントラストが高く、光のシーンは鮮やかに描写されますし、闇のシーンはわずかな暗さの違いを克明に描き出しています。
音響はdts-HD MA 2.0chのマトリックスサラウンドです。AVアンプのサラウンドモードをdts Neural:Xにしておきますと、サラウンド方向やイネーブルドスピーカーを通じた天上方向からの音の配置が見事に反映していて、リアルな立体音響が楽しめます。音質自体は1985年の映画ということもあってかナローレンジな音質であり、低音の響きや高音の伸びははあまり期待できないのですが、聞きやすいサウンドになっています。
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