野火(2014)(HD/U-NEXT)|Fire TV Stickで観た映画のレビュー
No Image | 原題 | – |
レーベル | 海獣シアター | |
制作年度 | 2014年 | |
上映時間 | 87分 | |
監督 | 塚本晋也 | |
出演 | 塚本晋也、森優作、神高貴宏 | |
画面 | 1.78:1/SDR | |
音声 | DOLBY DIGITAL 2.0ch 日本語 | |
字幕 | – |
あらすじ
太平洋戦争末期のフィリピン。肺病を患った田村一等兵は、わずかな芋と共に部隊を追い出され、野戦病院に行くよう命令される。しかし、野戦病院でも田村一等兵を受け入れる余裕はなく、わずかな芋を奪い取った挙句、病院から放り出して部隊に復帰するよう仕向ける。
部隊に戻っても「役立たず」と言われた田村一等兵は、一人ジャングルの中を彷徨い、生き延びようとするが、現地の人の住む痕跡を探して食料を得ようとする中、現地の人を殺害してしまうような事態は発生してしまう。
それでも、田村一等兵は他の部隊の兵士と合流し、撤退命令の出ている中、退却を図るが、夜間に移動しようとして米軍の総攻撃を受けてしまい、田村一等兵以外の日本兵は全滅してしまう。
米軍の攻撃を逃れた田村一等兵は伍長と永松という兵士たちと出会う。永松は生き延びるために「猿を捕獲してその肉を食べる」と称して現地の人を殺害し、その人肉を食べていた。田村一等兵は自分の手榴弾を伍長に渡してしまい、彼に殺されそうになるが辛くも生き延び、永松と伍長の戦いを見守ることになる。戦いは永松が勝ち、伍長の人肉を喰らっていた。田村一等兵は狂気の永松と対峙することになる。
レビュー
大岡昇平が書いた戦争小説の傑作を実写映画化したのが、この「野火」です。1959年には市川崑監督が映画化していますが、2014年版「野火」を監督した塚本晋也によれば、「市川崑監督作品のリメイクではなく、大岡昇平の原作に影響を受けて、映画化に挑んだ」と話しています。2015年に初めて劇場公開された後は、毎年8月に塚本晋也監督が劇場に頼み込んで上映会を実施しています。2025年は戦後80年ということで劇場での上映会も実施されていますが、U-NEXTで見放題配信がされていましたので、劇場には行かずにホームシアターで鑑賞しました。アメリカでの映画の評価は高く、Rotten Tomatoesでは批評家評価は88%、観客評価は71%と高い評価を得ています。
物語は太平洋戦争末期のフィリピンが舞台で、肺病を患ったために部隊から追い出され、野戦病院も受け入れてくれず、フィリピンのジャングルをただ一人彷徨い続けて生き延びようとする田村一等兵の姿を追いかけた物です。
田村一等兵はジャングルで生き延びるために図らずも現地の人を殺害したり、他の部隊の兵士から馬鹿にされて食糧を取り上げられたりしますが、それでもアメリカ軍の攻撃を受けても他の兵士とは違い生き延びてしまうところが、田村一等兵の誤算であり、地獄でもあります。
映画の中で、日本兵たちが食糧とタバコを物々交換するシーンが多々あり、追い詰められた日本兵にとっては、食料よりも精神的安定を図れるタバコを欲するというのがよくわかるようになっています。大戦末期なので日本兵たちは物理的にも精神的にも追い詰められていて、自分たちより弱い兵士に対しては横暴なのが手に取るようにわかります。
映画は、大自然と日本兵、特に田村一等兵を対比して描くことで、田村一等兵の生き延びようと足掻く姿を達観した視点で描写しています。田村一等兵の他にも登場人物はいますが、視点は田村一等兵から離れることはありません。映像がカラーですので、大自然と田村一等兵の立ち位置が明確にわかるようになっています。
シーンとしては多くはないのですが、米軍の攻撃により全滅していく日本兵たちのグロテスクな描写シーンはどぎついです。手足がもぎれたり、内臓を飛び出したりする兵士の姿を明確に描写することで、戦争がかっこいい、とは間違っても主張できないようになっています。
後半では、永松が「猿を取ってくる」と称して、現地の住民を殺害し、その住民の人肉を食べている描写が明るみになります。人肉を食べるというタブーを映像やセリフで明確に示すことで、戦争における罪深さを表しています。そして、伍長と永松の戦いは、まさに人肉をどちらが食べるか、という生存本能をかけた戦いになっていて、神経がすり減るような描写になっています。
田村一等兵は最後は米軍の捕虜収容所に入り、戦後、一人手記を書くシーンになりますが、その行為の中には戦争で受けたトラウマを解消しきれないものを抱えていて、後味が悪い終わり方になっています。田村一等兵が人肉を食べたのかの明確な描写はないのですが、食べたのではないかと思わせる終わり方になっています。
映像はHD/SDRで配信されています。IMDbではマスターデータの情報がないのですが、おそらくマスターデータは2Kだろうと思います。HDとしての解像度は十分にあり、ジャングルの息苦しさをよく描写しています。また、ジャングルの原色や、負傷した日本兵の痛々しさを明確に描写するような色彩をしていますので、ハッとさせられるような魅力があります。
音響はDOLBY DIGITAL 2.0chサラウンドです。AVアンプをDOLBY SURROUNDモードで再生しましたが、天井方向を含め、擬似的に三次元の音響空間が成立しています。米軍の飛行機が田村一等兵たちを攻撃するシーンでは頭上を飛行機が飛びますし、攻撃を受けている最中の銃撃音や爆発音は視聴者が攻撃されているかのような音場感になっています。低音の出方も効果的で、戦闘シーンでは恐怖感に襲われるようになっています。惜しむらくは塚本晋也をはじめとする俳優さんたちのセリフが聞き取れないことが多く、物語の進行がわかりづらい面を抱えているところでしょうか。
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