『哀れなるものたち』配信版レビュー|肉体から始まる“知性と自由”の獲得。ランティモスが描いた過激で哲学的な成長譚【4K / Dolby Vision / Dolby Atmos】
ヨルゴス・ランティモス監督が、アラスター・グレイの小説を大胆に映画化した『哀れなるものたち』は、身体は大人、精神は子供という不安定な存在から出発し、知性・性・社会性を獲得していく女性の成長を描いた、極めて挑発的な寓話である。
本作は万人向けの娯楽映画ではない。不快さ、笑い、官能、知的興奮が混在し、観る者の価値観を試すような構造を持つ。その一方で、映像・演技・主題の完成度は極めて高く、強烈な鑑賞体験をもたらす作品でもある。
2024年のアカデミー賞では、エマ・ストーンが主演女優賞を受賞したほか、美術賞・衣装デザイン賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞を含む計4部門を受賞。映像表現、身体性の扱い、フェミニズム的主題はいずれも強烈で、好悪を分けながらも深い印象を残す作品となった。
『哀れなるものたち』配信版 基本仕様
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邦題 | 哀れなるものたち |
|---|---|---|
| 原題 | Poor Things | |
| レーベル | Searchlight Pictures | |
| 制作年度 | 2023年(劇場公開版) | |
| 上映時間 | 141分(劇場公開版) | |
| 監督 | ヨルゴス・ランティモス | |
| 出演 | エマ・ストーン, マーク・ラファロ, ウィレム・デフォー | |
| 画面 | 1.66:1 / Dolby Vision | |
| 音声 | Dolby Atmos 英語 | |
| 字幕 | 日本語 | |
| リージョン | 配信専用 | |
| パッケージ | Disney+ 配信(4K HDR) |
あらすじ(短縮版)
科学者ゴッドによって蘇生された女性ベラは、成人女性の身体と子供の知能を併せ持つ存在だった。
彼女は旅と性体験を通して世界を知り、やがて自我と自由を獲得していく。
あらすじ(詳細)
科学者ゴッドは、橋から身を投げて自殺した妊婦の遺体を発見し、胎児の脳を女性の身体に移植することで、ベラという存在を蘇生させる。その結果、ベラは成人女性の身体を持ちながら、知能は子供という不安定な状態で生きることになる。
ゴッドは弟子のマックスにベラの観察を任せる。マックスは彼女の行動を記録するうちに恋心を抱き、ゴッドは二人を結婚させようと考える。しかし婚姻書類を作成した弁護士ダンカンもベラに惹かれ、彼女を連れ出してヨーロッパへの旅に出てしまう。
旅の中でベラは性体験を重ね、欲望や好奇心を爆発させていく。一方で、ダンカンは成長していくベラの思考についていけず、関係は破綻する。やがてベラは売春宿で働きながら、社会や権力、搾取の構造を身体的に学んでいく。
その後、ベラはマックスのもとへ戻り結婚を決意するが、式の場に現れた将軍アルフィーによって、ベラの前世が「ヴィクトリア」という名の彼の妻だったことが明かされる。ベラは過去と向き合い、自らの自由を確立するため、最後の対峙に臨む。
見どころとテーマ
- 身体から始まる成長譚
知性より先に身体と欲望が解放されるという逆転した成長プロセスが、極めて挑発的。 - フランケンシュタイン的設定の再構築
生命創造の寓話を、女性の自立と主体性の物語へと転化。 - セックスを通じた自己確立
性を搾取や消費ではなく、学習と主体形成のプロセスとして描く点が大胆。 - 支配する男たちと、選び直すベラ
ゴッド、ダンカン、アルフィーという異なる支配形態との対峙が物語を推進。 - 強烈な造形美と演出
魚眼レンズ、モノクロと原色、歪んだ建築美が世界観を決定づける。
映像レビュー【4K / Dolby Vision】
4K Dolby Visionで配信されており、DIもネイティヴ4K。35mmフィルム撮影による質感と、HDRによる輝度・色彩表現が高次元で融合している。
序盤はモノクロ映像でベラの未成熟な状態を象徴し、旅に出て以降は原色を強調した幻想的なカラーへ移行。1.66:1というヨーロピアンビスタサイズ、魚眼レンズの多用も含め、映像は常に強烈な異化効果を持つ。
家庭視聴環境では、暗部や歪んだ画面構成に最初は戸惑うかもしれないが、それも含めて本作の演出意図であり、慣れるほどに映像世界への没入度は高まる。
映像スコア:93点 —— ネイティヴ4KとHDRを最大限活かした、極めて個性的で完成度の高い映像表現。
音響レビュー【Dolby Atmos】
Dolby Atmosは派手な天井効果よりも、音の配置と移動感を重視した設計。会話、環境音、音楽が有機的に絡み合い、映像世界を包み込む。
ドラマ作品ながら、BGMは低域を含めて力強く鳴り、音の渦に巻き込まれるような感覚を生む点が印象的である。
音響スコア:90点 —— 空間演出に優れた、知的で不穏なAtmosミックス。
総評
『哀れなるものたち』は、フェミニズム、身体性、自由意志というテーマを、極端で露悪的な映像と物語によって真正面から突きつける、極めてラディカルな作品である。
強い性的描写や価値観の揺さぶりを含むため、誰にでも薦められる作品ではない。しかし、映画表現の可能性や、女性の主体性を巡る問いに興味がある人にとっては、間違いなく記憶に残る一本となるだろう。
総合スコア:91点 —— 好悪を超えて語り継がれる、2020年代を代表する問題作。


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