『野火(1959)』4K UHD Blu-ray(輸入盤)レビュー|戦後14年目に描かれた飢餓と極限の戦場【SDR / PCM】

『野火(1959)』4K UHD Blu-ray(輸入盤)レビュー|戦後14年目に描かれた飢餓と極限の戦場【SDR / PCM】

市川崑が大岡昇平の小説を映画化した戦争文学の金字塔。戦後わずか14年という時期に製作され、敗戦直後の空気を色濃く残す本作は、飢餓・孤独・狂気に追い詰められる兵士たちの姿を、モノクロ映像の陰影と共に映し出す。
当時の日本映画界では戦争体験がまだ生々しく、観客にとっても記憶の延長線上にあるテーマを正面から描いた作品であり、検閲や観客の反応も含め戦後映画史において重要な位置を占める。Criterionによる4K UHD Blu-rayで、その苛烈な作品世界を鮮烈に体験できる決定版だ。

『野火(1959)』4K UHD Blu-ray 基本仕様

野火(1959) 4K UHD Blu-rayジャケット 邦題 野火(1959)
原題 Fires on the Plain
レーベル THE CRITERION COLLECTION
制作年度 1959年(劇場公開版)
上映時間 104分(劇場公開版)
監督 市川崑
出演 船越英二, ミッキー・カーティス, 滝沢修
画面 2.39:1 / SDR
音声 PCM 2.0ch 日本語
字幕 英語
リージョン UHD=リージョンフリー, Blu-ray=リージョンA
パッケージ UHD 1枚(本編) / BD 1枚(本編+特典映像)

あらすじ(短縮版)

太平洋戦争末期のフィリピンで、肺病に罹った田村一等兵は部隊にも病院にも居場所を失い、孤独に戦場を彷徨う。塩や食料をめぐって出会う兵士たちは次第に狂気に堕ち、やがて人肉食という究極の飢餓に直面する。田村は死と隣り合わせの漂流の果てに、生への執着と人間の境界を問われる。

あらすじ(詳細)

1945年、太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島。田村一等兵(船越英二)は肺病を患い、部隊から病院に送られるが受け入れを拒否され、居場所を失う。病院周辺で他の兵士と共に漂泊するうち、現地人の塩や食料を奪い、やがて射殺という罪を犯してしまう。

その後も彷徨を続ける田村は、煙=「野火」を目印に生存者を探しながら敗残兵と合流する。脱出を試みるも米軍の待ち伏せで壊滅し、奇跡的に生き延びるが、再会した安田と永松との間では人肉食をめぐる凄惨な争いが繰り広げられる。田村はその極限の状況に巻き込まれつつも、歯の不調により肉を食すことができず、最後の一線を超えることなく終局を迎える。

見どころとテーマ

  • 戦後直後の視点:製作が戦後14年という近さゆえ、戦場の記憶が生々しく映像化されている。
  • モノクロ表現の力:露骨な流血や残虐描写は控えめだが、描かないことでかえって戦争の虚無を浮かび上がらせる。
  • 塩とタバコの象徴性:飢餓の中で生存の象徴となる塩、快楽の対価となるタバコが兵士の実態を物語る。
  • 人肉食の衝撃:「猿の肉」と称して人肉を差し出す永松の行動は、極限下の人間性の崩壊を象徴する。
  • 「野火」の意味:現地人が上げる煙が田村の目印であり、生の象徴でもある。ラストでその意味が集約される。

4K UHD Blu-ray 映像レビュー【SDR】

35mm原版を4Kスキャンしたネイティヴ4K。モノクロ映像はグレインが自然に残り、解像感に優れる。SDRグレーディングのためHDR的なダイナミックさはないが、白飛びはなく、黒潰れも最小限。国内ロケのためフィリピンの熱帯風景との差異は感じられるが、高精細映像によって時代を超えて鮮明に再現されている。

音響レビュー【PCM 2.0ch】

モノラル音源をリニアPCM収録。クリアで歪みが少なく、セリフも聞き取りやすい。銃声や砲撃音はレンジが限られるが、臨場感を損なわない。1950年代の音源としては極めて良好な復元であり、鑑賞上の不満はない。

特典映像一覧と評価

特典内容新規収録画質
Introduction by Donald RiechieNOSD
Interviews with Kon Ichikawa and Mickey CurtisNOSD

インタビュー映像では、市川崑自身が製作当時の意図を語り、またミッキー・カーティスが若手俳優として参加した現場の空気を回想している。短いながらも歴史的証言として価値が高い。

総評

『野火(1959)』4K UHD Blu-rayは、戦争文学の映像化として世界的に高い評価を受けた市川崑版の決定版リリース。モノクロならではの叙情性と、人間の極限を描く普遍的なテーマが、4K UHDの鮮明さによって現代に蘇る。
Criterion盤はリストアの信頼性・アーカイブ性においても抜群であり、戦争映画史・日本映画史双方において不可欠な一本であると同時に、コレクション価値も非常に高い。

関連レビュー

参照元

Rotten Tomatoes – Fires on the Plain

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