『ジョーカー』4K UHD Blu-ray(輸入盤)レビュー|善良な男が“ジョーカー”へ堕ちていく。社会の歪みが生んだヴィラン誕生譚【Dolby Vision / Dolby Atmos】
バットマンの宿敵としてあまりにも有名なヴィラン、ジョーカー。その誕生を、一人の孤独な男が社会とのつながりを失い、次第に狂気へと沈んでいく悲劇として描いたのが『ジョーカー』である。
主人公アーサー・フレックは、売れないピエロとして働きながら病気の母を支え、いつかコメディアンとして成功することを夢見る、ごく普通の男だった。しかし、仕事、家族、社会保障、周囲の人々との関係が次々と崩れていくことで、そのささやかな希望さえ奪われていく。
本作にはスーパーヒーローとしてのバットマンは登場しない。そのため、善と悪の対決ではなく、「なぜアーサーはジョーカーになったのか」という一点に物語を集中させることに成功している。
ホアキン・フェニックスの鬼気迫る演技と、荒廃していくゴッサム・シティの描写が重なり、コミック映画という枠を超えた重厚な人間ドラマとして成立した一本である。
『ジョーカー』4K UHD Blu-ray 基本仕様
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邦題 | ジョーカー |
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| 原題 | JOKER | |
| レーベル | Warner Bros. Home Entertainment | |
| 制作年度 | 2019年(劇場公開版) | |
| 上映時間 | 122分(劇場公開版) | |
| 監督 | トッド・フィリップス | |
| 出演 | ホアキン・フェニックス, ロバート・デ・ニーロ, ザジー・ビーツ | |
| 画面 | 1.85:1 / Dolby Vision | |
| 音声 | Dolby Atmos 英語 / Dolby Digital 5.1ch 英語, スペイン語, フランス語 | |
| 字幕 | 英語, スペイン語, フランス語 | |
| リージョン | UHD=リージョンフリー / Blu-ray=リージョンA,B,C | |
| パッケージ | UHD 1枚(本編)/ BD 1枚(本編 + 特典) |
あらすじ(短縮版)
ゴッサム・シティでピエロとして働くアーサー・フレックは、病気の母を支えながら、いつかコメディアンになることを夢見ていた。
しかし、仕事を失い、社会からの支援も打ち切られ、さらに家族をめぐる真実まで知ったことで、彼の心は次第に追い詰められていく。
そして、地下鉄で起こした殺人事件をきっかけに、アーサーはやがて「ジョーカー」という新たな自分へと変貌していく。
あらすじ(詳細)
アーサーはゴッサム・シティで、売れないピエロとして働いていた。街頭で客引きをすれば子供たちに看板を奪われ、追いかけた末に殴る蹴るの暴行を受ける始末である。
アーサーには病気を抱えた母親がおり、二人で暮らしていた。母はゴッサム・シティの大富豪トーマス・ウェインに手紙を送り続けている。かつて彼のもとで働いていたため、いつかトーマス・ウェインが自分たちを救ってくれると信じていたが、彼が二人に救いの手を差し伸べることはなかった。
ピエロの派遣会社で働くアーサーは、同僚から本物の拳銃を渡される。それ以降、密かに拳銃を持ち歩くようになるが、病院で子供たちを楽しませようとピエロを演じていた際、拳銃を床に落としてしまう。
その事実が会社に知られ、アーサーは上司から解雇を言い渡される。
アーサー自身も、突然発作的に笑い出してしまう症状を抱えていた。そのためソーシャル・ワーカーによるカウンセリングを受けていたが、街の財政難によって支援そのものが打ち切られ、面談も受けられなくなってしまう。
そんなある日、地下鉄に乗っていたアーサーは、若い女性に絡む男性3人組を見かける。発作によって笑い出してしまったアーサーは、彼らに因縁をつけられ暴行を受けるが、持っていた拳銃で3人を射殺してしまう。
事件は世間の大きな話題となる。しかし、アーサーが犯人であることを示す証拠は少なく、警察も彼にたどり着けずにいた。
アーサーと母は、マレーという男が司会を務めるテレビ番組を毎日のように見ていた。アーサーにとって、いつかマレーの番組にゲストとして出演することは大きな夢だった。
その頃、アーサーは場末の会場でコメディアンとしてステージに立つ。しかし、彼の芸は客を笑わせることができなかった。その様子を撮影した映像がマレーの番組で取り上げられ、アーサーは笑いものにされる。
ところが、それをきっかけにマレーの番組から出演依頼が舞い込んでくる。
一方、アーサーは母がなぜトーマス・ウェインに助けを求め続けるのか疑問を抱く。母によれば、トーマス・ウェインこそがアーサーの父親なのだという。
その言葉を信じかけたアーサーだったが、真相を調べていくうちに、トーマス・ウェインが自分の父親ではないこと、さらに母も自分の実の母親ではなかったという事実に突き当たる。
自分の人生そのものが偽りだったことを知ったアーサーは、絶望の中で次第に狂気の淵へと沈んでいく。
そして、周囲の人間を殺害しながら、ついに憧れ続けていたマレーの番組へ出演する。
その時、アーサーは自らを「ジョーカー」と名乗り始める。
見どころとテーマ
アメコミを代表するヴィラン、ジョーカーの誕生秘話
アメコミを代表するスーパーヒーロー、バットマンの宿敵であるジョーカーが、どのように誕生したのかを単独作品として描く。
一般的なスーパーヒーロー映画とは異なり、悪役を主人公として、その人間性が崩壊していく過程そのものを物語の中心に据えている。
バットマンは登場しない
ジョーカー誕生を描く作品ではあるが、時代設定の関係もあって、スーパーヒーローとしてのバットマンは登場しない。
後にバットマンとなるブルース・ウェインはまだ子供であり、ウェイン家にまつわるエピソードによって、バットマンの世界と本作がつながっていることが示される。
ジョーカーへと変わるアーサーの転落人生を描いた悲しい物語
アーサーが最初から犯罪者として描かれているわけではない。
ささやかな幸せを願いながら生きていた一人の男が、仕事、家族、社会、そして信じていた人々から次々と裏切られ、狂気の犯罪者ジョーカーへと変貌していく。
その転落の過程が、本作を単純なヴィラン誕生物語ではなく、悲劇として成立させている。
アーサーと周囲の人々との関係の変化が彼を追い込んでいく
アーサーと母親との関係、ピエロ仲間との関係、そして近所に住むシングルマザーとの関係など、アーサーが信じていた人々とのつながりが次々と崩れていく。
社会との接点を一つずつ失っていくことで、アーサーは逃げ場を失い、極限状態へと追い込まれていく。
アーサーが出演を夢見るマレーのテレビ番組
アーサーと母が見続けているマレー司会のテレビ番組は、アーサーにとって成功した人生の象徴でもある。
その番組への出演を夢見ていたアーサーが、最終的には「ジョーカー」として出演し、自らが憧れた世界そのものを破壊してしまう展開は衝撃的である。
荒廃するゴッサム・シティの中で、アーサーは象徴へと変わっていく
治安が悪化し、貧富の格差が広がり、社会そのものが荒廃していくゴッサム・シティ。
その中で、倫理観を失い人を殺めるジョーカーが、社会の底辺に置かれた人々から英雄のように崇められていく。
アーサー個人の狂気だけではなく、ジョーカーという存在を生み出してしまう社会そのものも描かれている。
4K UHD Blu-ray 映像レビュー【4K / Dolby Vision】
一部で35mmフィルムも使用されているものの、基本的にはデジタルカメラで撮影された本作は、最終的に4K DIとしてマスターが制作されている。
本4K UHD Blu-rayは、その4Kマスターを使用したネイティヴ4K収録である。
4K解像度の恩恵は大きく、主人公アーサーの顔を大写しにしたショットにも十分耐えられる精細感を備えている。髭や肌の皺、疲れ切った表情まで克明に描写され、彼が送ってきた過酷な人生まで画面から伝わってくる。
ゴッサム・シティの描写も精細感が高い。
荒れた街並み、地下鉄、薄汚れた建物などが細部まで描き込まれ、荒廃していく都市の空気そのものに説得力を持たせている。1.85:1の画角も上下方向の情報量が比較的多く、街の中に人物を配置する映像に臨場感をもたらしている。
HDRはDolby Visionで収録。
夜のゴッサム・シティでは怪しげなネオンや街灯が闇の中から浮かび上がり、一方で昼間のシーンでは、華やかさを抑えたくすんだ都市の色調がリアリティ豊かに再現される。
単純に鮮やかな映像を見せるHDRではなく、荒廃したゴッサム・シティの空気を表現するためにDolby Visionが使われている印象が強い。
バイオレンス描写では血の赤が強烈に浮かび上がるため、そこでHDRの効果をはっきりと感じることもできる。
ネイティヴ4Kの解像感とDolby Visionによる陰影・色彩表現が、アーサーの心理状態とゴッサム・シティの荒廃を視覚的に補強する、完成度の高い映像である。
映像スコア:94点 —— ネイティヴ4Kの精細感とDolby Visionによる陰影表現が秀逸。アーサーの表情から荒廃したゴッサム・シティまで、作品世界を克明に描き出す。
音響レビュー【Dolby Atmos】
劇場公開時からDolby Atmosで上映されていた本作は、4K UHD Blu-rayでもDolby Atmosで収録されている。
本作のAtmosで特に印象的なのは、BGMの空間的な広がりである。
音楽が単純にフロントスピーカーから流れるのではなく、視聴者の周囲や頭上方向まで拡散するように配置され、楽曲によってはボーカルやドラムなども高さ方向へ展開する。
そのため、アーサーの心理状態を音楽によって表現するシーンでは、音そのものに包み込まれるような感覚が強い。
ドラマパートの効果音についても、Atmosらしい三次元的な空間表現が使われている。
地下鉄のシーンでは車両の走行音が視聴者を包み込み、土砂降りの雨が降る場面では頭上を含めて音が広がるため、自分自身がその場にいるような感覚を味わえる。
ゴッサム・シティの雑踏や周囲の環境音も自然に広がり、派手なアクション映画とは異なる形でAtmosのメリットを生かしたサウンドデザインになっている。
ただし、作品全体としては効果音よりもBGMによる演出を重視している印象が強い。
音楽の音圧と広がりが非常に大きいため、本来ならば印象に残るはずの細かな環境音や効果音が、BGMによってマスキングされてしまう場面もある。
物語を感情的に盛り上げるという意味では効果的だが、Atmosによる細かなオブジェクト表現を楽しむという観点では、少し惜しさも感じるところである。
それでも、音楽と環境音を利用してアーサーの不安定な心理へ視聴者を引き込むという目的では、非常に完成度の高いAtmosミックスである。
音響スコア:91点 —— BGMを中心とした三次元的な音場構築が秀逸。効果音が音楽に隠れる場面はあるものの、作品世界への没入感は非常に高い。
総評
『ジョーカー』は、アメコミを代表するスーパーヒーロー、バットマンの宿敵であるジョーカーの誕生を描きながら、そのヒーローであるバットマンを一切登場させないという変化球で作られた作品である。
物語は、アーサーという一人のピエロが社会の荒波にさらされ、次第に邪悪な道へと足を踏み入れていくまでを描いている。
しかし、アーサー自身の性格だけが彼をジョーカーへ変えていくわけではない。
突然笑い出してしまう症状、病気の母親の介護、仕事上のトラブル、社会保障の打ち切り、そして周囲の人々との関係性の崩壊など、彼を取り巻くすべての環境が少しずつアーサーを押し潰そうとしていく。
それに抗いきれなかったアーサーが、最後には社会から逸脱し、「ジョーカー」という存在へ変貌していく。
その意味では、本作はヴィランの誕生秘話であると同時に、一人の人間が社会とのつながりを失って沈んでいく重い悲劇でもある。
バットマン自身は登場しないが、トーマス・ウェインや幼いブルース・ウェインなど、バットマン誕生につながるサブエピソードは作品の中に組み込まれている。
逆にバットマンが存在しないからこそ、ヒーロー対ヴィランという単純な構図にならず、ジョーカーという一人の人間の誕生に焦点を絞った重厚なドラマとして成立している。
アーサーが狂気の淵からジョーカーとして頭角を現した後の物語は、続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で描かれることになる。
その続編を見るために今回改めて第1作を鑑賞したが、ホアキン・フェニックスの演技、社会から孤立していくアーサーの描写、荒廃したゴッサム・シティの世界観を含め、あらためて本作の完成度の高さを実感した。
4K UHD Blu-rayとしても、ネイティヴ4K/Dolby Visionによる映像とDolby Atmosによる音響が作品世界を強力に補完しており、『ジョーカー』という作品をホームシアターでじっくりと味わうには非常に優れたディスクである。
総合スコア:93点 —— ヴィラン誕生譚という枠を超え、一人の男が社会とのつながりを失っていく悲劇を重厚に描いた秀作。4K映像とAtmosも作品世界への没入を大きく高める。
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