『クラッシュ(1996)』LaserDisc(輸入盤)レビュー|死と快楽を結びつけたクローネンバーグの問題作を、Criterion版LDで再体験【SD / SDR / PCM】

『クラッシュ(1996)』LaserDisc(輸入盤)レビュー|死と快楽を結びつけたクローネンバーグの問題作を、Criterion版LDで再体験【SD / SDR / PCM】

自動車事故による「死」の恐怖と、セックスによる「生」の快楽。その本来なら相反する二つを意図的に結びつけ、人間の欲望を冷徹に見つめたデヴィッド・クローネンバーグ監督の問題作『クラッシュ』。

J・G・バラードのカルト小説を映画化した本作は、交通事故をきっかけに性的なエクスタシーを求めるようになる人々を描き、劇場公開時にはNC-17指定を受けるほどセンセーショナルな作品となった。

今回は、The Criterion Collectionが1997年に発売した輸入盤LaserDiscで鑑賞。4K UHD Blu-rayやBlu-rayが当たり前になった現在、480i・レターボックスという映像仕様はさすがに時代を感じさせるが、監督監修によるフィルムライクな色調と、PCM 2.0chに記録されたDolby Surround音声は、LaserDiscというメディアが持っていた魅力を改めて感じさせる。

『クラッシュ(1996)』輸入盤 LaserDisc 基本仕様

CRASH(1996) LaserDiscジャケット 邦題 クラッシュ(1996)
原題 CRASH(1996)
レーベル The Criterion Collection
制作年度 1996年(劇場公開版)
上映時間 100分(劇場公開版)
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演 ジェームズ・スペイダー、ホリー・ハンター、イライアス・コティーズ
画面 1.66:1 / SD / Letterboxed / SDR
音声 PCM 2.0ch 英語
字幕 Closed Caption 英語
リージョン LD=Region Free
パッケージ LD 1枚(本編 + 特典)

あらすじ(短縮版)

夫婦生活に倦怠感を抱えていたジェームズは、ある日、自動車事故を起こす。

事故をきっかけに出会ったヘレン、そして自動車事故に性的なエクスタシーを見いだすヴォーンとの交流を通して、ジェームズと妻キャサリンは、事故とセックスを結びつけた危険な世界へと足を踏み入れていく。

あらすじ(詳細)

ジェームズとキャサリンの夫婦仲は決して悪くないものの、二人は夫婦生活に倦怠感を感じていた。

ある日、車を運転していたジェームズは交通事故を起こし、衝突した相手の車を運転していた男性を死なせてしまう。生き残った同乗者のヘレンは、事故現場でジェームズの前に乳房をさらけ出す。

その後、ジェームズとヘレンは入院先の病院ですれ違い、互いの存在を意識するようになる。

やがて二人を結びつけたのが、自動車事故に異常な執着を持つヴォーンだった。

ヴォーンは、自動車事故によって「生」が輝きを増すと信じ切っていた。彼は観客を集め、人気俳優ジェームズ・ディーンが死亡した自動車事故を再現するイベントまで開催している。

事故の再現そのものは成功するものの、警察が取り締まりに現れたことで観客たちは散会する。

その試みに立ち会ったジェームズとヘレンは、ジェームズの妻キャサリンや、ヴォーンと行動を共にするガブリエルを巻き込みながら、交通事故によって得られるエクスタシーが性生活にも影響を及ぼすことを体験していく。

そして彼らは、次第に通常とは異なる性生活へとのめり込んでいく。

交通事故によるエクスタシーと性生活を結びつけるヴォーンの行動はさらに過激になり、次第に彼自身を死へと近づけていく。

その危うさは、やがてジェームズとキャサリンの生活にも大きな影を落としていく。

見どころとテーマ

J・G・バラード原作のカルト小説をクローネンバーグが映画化

1973年にJ・G・バラードが発表したカルト小説を、独特の作風で知られるデヴィッド・クローネンバーグが映画化。自動車事故と性欲を結びつけるという原作の危険なテーマを、冷徹な映像表現で真正面から描いている。

セックスと自動車事故を密接に結びつけた問題作

夫婦生活に倦怠感を抱いていた主人公ジェームズが、交通事故をきっかけに、自動車事故そのものが性的好奇心を刺激することに気づいていく。関係する人々の間で事故とセックスが結びついていくという、極めて刺激的な内容の作品である。

ジェームズ・ディーンの事故死を再現する異様なイベント

ジェームズを自動車事故によるエクスタシーへと駆り立てるきっかけの一つが、ヴォーンによって行われるジェームズ・ディーンの死亡事故の再現である。有名俳優の実際の事故死まで性的興奮の対象に変換してしまう発想に、本作の異常性が凝縮されている。

交通事故とセックスを結びつける、生と死の紙一重の関係

生きることに直結する性生活を、死の可能性を伴う交通事故によって刺激しようとする登場人物たち。生と死が紙一重のところに存在するという本作のテーマが、危険な行為を通じて描かれている。

NC-17指定も納得の、セックスシーンの多さ

テーマがテーマだけに、セックスシーンは通常の劇映画とは比較にならないほど多い。アブノーマルな状況で展開されるため単純に官能的とは言い難いが、通常の映画ならぼかされるような表現まで真正面から描かれており、NC-17という成人指定を受けたことにも納得させられる。

LaserDisc 映像レビュー【480i / Letterboxed / SDR】

本LaserDiscは1997年にThe Criterion Collectionからリリースされたもので、映像はデヴィッド・クローネンバーグ監督監修のもとでビデオ化されている。

LaserDiscというフォーマットのため、解像度は当然ながら1Kにも満たず、480iの4:3映像の中に1.66:1のレターボックス形式で収録されている。

今回は4Kテレビ側の表示を「ズーム」にして鑑賞したため、画面いっぱいに表示する代わりに、実効解像度は4:3フル表示よりさらに低下する。

DVDと比較しても、アナログ映像記録であるLaserDiscの解像度では明確に不利であり、現代の基準から見ると高画質とは言い難い。

しかし、アナログテレビ全盛期に最高峰の家庭用映像メディアとして存在していたLaserDiscとして見ると、意外なほどフィルムライクな映像である。

視聴を続けているうちに解像度の低さにも目が慣れ、むしろ映像が持つ質感そのものに意識が向くようになる。

SDRによる色彩表現も、本作特有の冷たいトーンを十分に再現している。

青や灰色を中心とした無機質な色合いが優勢で、自動車という鉄の塊が持つ冷たさと映画全体の雰囲気がよく一致している。

高解像度という意味では現代のディスクに到底及ばないものの、クローネンバーグ監修による色調やフィルム的な質感には、LaserDiscならではの魅力が残されている。

映像スコア:74点 —— SD・レターボックスという限界は明確だが、Criterionらしいフィルムライクな色調は今見ても魅力的。

音響レビュー【PCM 2.0ch / Dolby Surround】

劇場公開時にはDolby Digital 5.1chも用意されていた本作だが、このLaserDiscではDolby Surround 3-1chをマトリックスエンコードしたPCM 2.0chで収録されている。

AVアンプのDolby Surroundモードでデコードして視聴すると、そのサラウンド効果は想像以上に優秀だった。

自動車の移動音は、まるでディスクリート5.1chではないかと思わせるほど明確に前後へ移動し、本来モノラルであるはずのサラウンドチャンネルも、現在のAVアンプによって擬似的にステレオ化されることで、予想以上に広い音場を作り出す。

さらにAVアンプのDolby Surround処理では、天井方向のスピーカーにも音場が拡張される。

そのため、オリジナルはDolby Surround 3-1chでありながら、現代のホームシアター環境では擬似的なイマーシヴ・サラウンドとして再生でき、作品への没入感はかなり高い。

LaserDiscのPCM音声は16bit/44.1kHzで記録されているが、実際に聴くと予想以上に音質が良い。

セリフは明瞭で、自動車の走行音や衝突音にも厚みがあり、音楽にも十分な情報量が感じられる。

Blu-rayのdts-HD MAのようなロスレスマルチチャンネル音声と比較しても、純粋な音質という点では大きく見劣りしないと感じられる。

映像には明確な時代差がある一方、音についてはLaserDisc時代から相当に高い水準へ到達していたことを改めて認識させられた。

音響スコア:86点 —— PCMの音質とDolby Surroundの包囲感は予想以上。現代のAVアンプで再生することで、LD音響の潜在能力が引き出される。

総評

『クラッシュ(1996)』は、自動車事故によって性生活への欲望が刺激されていくという、極めてモラル的に危ういテーマを真正面から扱った作品である。

カンヌ国際映画祭で上映された際に賛否両論が巻き起こったという話も、作品全体を通して見れば十分に理解できる。

主人公ジェームズが交通事故を通じて性的なエクスタシーを高めていくという物語は、一歩間違えれば単なるポルノ映画にもなりかねない。

実際、劇場公開時には成人指定となるNC-17レーティングを受けている。

しかし、本作は単純なポルノ映画ではない。

自動車事故という「死」に直結する出来事と、性生活という「生」に深く関わる行為を結びつけることで、生と死、肉体、欲望の関係そのものを描こうとしている。

クローネンバーグ監督作品らしく、その異常な状況を感情的に盛り上げるのではなく、どこか冷静で無機質な映像として提示していることも、本作を単なる官能映画とは異なるものにしている。

以前The Criterion CollectionのBlu-rayでも鑑賞した本作を、今回はあえてLaserDiscという過去の映像メディアで見直した。

画質についてはさすがにSD以下の解像感であり、4Kテレビで拡大して見るとフォーマットの古さは隠せない。

しかし、監督監修によるフィルムライクな色調は今でも十分に魅力があり、視聴を続けているうちに解像度そのものはそれほど気にならなくなった。

それ以上に驚かされたのが音響である。

PCM 2.0chにマトリックス収録されたDolby Surroundを現代のAVアンプで再生すると、自動車の移動感や環境音の包囲感は予想以上に優秀であり、LaserDisc時代の音響技術の高さを改めて確認できた。

最新フォーマットと比較すれば当然ながら限界はある。

それでも、映画を見るためのメディアとしてLaserDiscが当時どこまで高い水準に達していたのかを知る意味でも、今回の鑑賞は興味深い体験になった。

総合スコア:84点 —— 画質には時代を感じるが、Criterion監修の色調とPCM+Dolby Surroundの音響は今なお魅力的。LaserDiscで映画を観る意味を再確認できる一枚。

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