8 Mile(4K UHD/iTunes Movies)|Apple TVで観た映画のレビュー

配信仕様

あらすじ

1995年のデトロイトの底辺地域で若い白人男性のバニー・ラビットは、ラップで人生の成功を夢見ていたが、黒人主催のラップバトルに出演するもステージ上で何も声を出せず、敗退してしまう。

実家はトレイラーハウス住まいで、母はバニーの高校の上級生だったグレッグと生活していた。バニーは恋人であったジャニーンとも別れてしまった。ジャニーンが妊娠したと告白したからだったが、実際は妊娠していなかった。

ピザ屋のバイトの職を失ったバニーは、製造工場で働くことになる。それでもラップの夢を捨てきれないバニーに、ウインクはレコード会社にコネがあるからバニーをスターにしてやる、と持ちかける。最初はそれを疑っていたバニーだったが、最終的にはウインクを頼ることになる。

工場でアレックスという若い女性と出会ったバニーは、アレックスと恋に落ちる。アレックスはモデルとしてデトロイトから脱出する夢を見ていて、やはりウインクに頼んでコネでモデルのオーディションをお願いしていた。

バニーはラップバトルの主催者であるフューチャーやその仲間たちとつるんでいたが、出口のない人生に絶望しかかっていた。それでもラップに対してかける情熱は高く、ウインクのコネを頼ろうとするが、ウインクはアレックスと一線を超えていて、それに怒ったバニーはウインクを叩きのめしてしまったため、ウインクと繋がりのあるパパ・ドクとその取り巻きたちに叩きのめされる。

バニーの母もトレイラーハウスの家賃滞納のために立ち退きを命じられていたが、ビンゴで大当たりしたために立ち退きを逃れることができた。そして、バニーもラップバトルで再度の挑戦に挑むことになる。

レビュー

人気ラッパーのエミネムを主人公に備え、彼の半自伝的内容を映画化したものが、この「8 Mile」です。エミネムが物語でラッパーとして生計を立てようとする若者のバニー・ラビットを演じていて、リアルな物語が紡がれていきます。興行収入は製作費を大きく上回り大ヒットを記録していますが、評価は分かれていて、Rotten Tomatoesでは批評家評価は75%と高いのですが、観客評価は54%と低迷しています。

この物語はデトロイトの底辺で人生を歩んでいる白人の若者、バニーが自身の特技であるラップで人生の成功を目指す物語になっていて、一見するとサクセスストーリーっぽい内容かと思ったのですが、物語自体はバニーのサクセスストーリーにはなっていません。クライマックスでバニーはラップバトルで優勝こそしますが、デトロイトからカメラが離れることはなく、ラップバトルの優勝後も地に足をつけた展開になっていて、すっきりしない余韻の残るラストになっています。

映画のタイトルである「8 Mile」とは、デトロイトの裕福層と底辺層の住む地域の距離を表したもので、底辺層の人々が裕福な生活を望むためにあがきつづける様子を距離として提示しています。この距離のことは登場人物がしばしば口にします。そして、底辺の白人、黒人たちとの差別的描写も意図しているところがあり、バニーがその中で葛藤する様子が明瞭に描かれています。

カメラ自体はほぼ底辺地域の住人、バニーのような白人や黒人たちの様子を追い続けていますので、バニーのような白人や仲間の黒人たちのような底辺の人々の生活が克明に描写されます。それは救いのない描写であり、気分的には重くなってきます。

物語としては、登場人物たちがセリフを喋る代わりにラップを歌うことで自分の主張を代弁しているところがあり、ある意味ミュージカル的要素が入っている作品であるとも言えます。特に底辺で暮らす登場人物の放つラップは生活に密着しているためにシリアスな内容になっており、アメリカの現実を突きつけられる思いです。

映画はエミネムのファンと黒人をターゲットにしている節があります。それは白人の登場人物が少なく、黒人が多いというのもあります。黒人の放つラップが彼らの主義主張を訴えかけているところがあり、人種差別や貧困に喘ぐ彼らの訴えが強調されています。

映像は4K/DOLBY VISIONで配信されています。オリジナルは35mmフィルムですが、2022年に4KのDIマスターを作っていますので、ネイティヴ4Kでの配信になります。ただ、解像度はそんなに高くないです。不満は感じませんが目の覚めるような高精細な映像ではありません。また、デトロイトという衰退した都市のイメージを象徴するためか、バニーの心境を表現するためか、彩度も下げて描写していますので、どことなくモロクロームな映像になっています。DOLBY VISIONによる色彩表現も目の覚める鮮やかさではないです。

音響はDOLBY ATMOSでミックスされています。オリジナルは5.1chサラウンドですので家庭用メディアのために再ミックスしていますが、物語の大半は登場人物のセリフかラップをセンターから発しているだけなので、思ったほどイマーシヴなサラウンドではありません。もちろん、ラップバトルのシーンやバニーが働く工場の騒音等は天上方向を含む全方位で音に包み込まれる表現がされていますが、その他のシーンでは環境音があまり重視されていないので、意外とモノラル音声っぽい表現になっています。